外資系企業の増資における外貨払込 、円換算と登記実務のポイント
外貨払込をめぐる背景
当事務所では外資系クライアントの増資案件を多く扱います。
その際、出資金は海外送金されるため、為替差や銀行手数料による調整が問題となります。
かつては「銀行発行の株式取扱保管証明書」が必要でしたが、現在は会社の口座へ直接送金すれば良くなったため手続は大幅に簡略化されました。
とはいえ、送金が外貨建てで行われる場合、依然として実務上の注意点があります。
外貨建て払込の相談事例
とある会社より「増資の出資金をドル口座にドルで受け入れたい」という相談がありました。
背景には、受け入れた資金を再度ドルで送金する予定があり、円に転換すると多額の手数料が発生してしまう事情がありました。
決議の方法は2通り
外貨での払込を前提とする場合、決議の方法は次の2つが考えられます。
①発行価額・増加資本金額を外貨で決議し、外貨で払い込む方法
②発行価額・増加資本金額を円で決議し、外貨で払い込む方法
資本金額の確定方法
いずれの方法を採用しても、最終的に資本金の額は円建てでのみ増加します。
・払込日(払込期日または払込期間中の払込日)における為替レートで円換算
・登記の際は、当日の為替レートと円換算額を「資本金の額の計上に関する証明書」等に記載
これにより、登記手続は適法に処理されます。
法的根拠
会社計算規則第14条は、外貨での払込を前提に以下のように定めています。
「外国の通貨をもって払込みを受けた場合は、払込期日における為替相場に基づき算出された額をもって払込金額とする。」
この規定により、外貨払込は明確に想定されています。
払込取扱機関に関する重要な通達
外貨払込の場合に特に問題となるのが「どの銀行を払込取扱機関とできるか」という点です。
平成28年12月20日 民商第179号通達 では、次のように整理されています。
払込取扱機関に含まれるもの
・内国銀行の日本国内の本支店
・外国銀行の日本国内の支店
・内国銀行の海外支店(銀行法8条2項に基づき認可されたもの)
払込取扱機関に含まれないもの
・外国銀行の海外支店
したがって、海外にある外国銀行支店の口座に入金しても、払込証明としては利用できません。
外資系クライアントの場合は、必ず「日本国内の銀行口座」または「認可を受けた内国銀行の海外支店」を経由する必要があります。
実務上の選択と留意点
実際の案件では、②の「円で決議し、外貨で払い込む方法」が選ばれました。
理由は、①の場合には資本金額が切りの悪い数値になる可能性が高いためです。
ただし、②には為替リスクが伴います。
円換算額が決議した資本金額を下回らないように、多めに外貨を送金する必要があります。その場合、多めに払い込まれた部分を資本準備金に組み入れる決議をしておく必要があります。
本コラムのまとめ
・外資系企業の増資では外貨払込が一般的。
・決議方法は「外貨建て決議」または「円建て決議+外貨払込」の2通り。
・資本金は最終的に円建てで確定し、登記には為替レートを記載。
・外貨払込は会社計算規則第14条に基づき適法。
・払込取扱機関は 民商第179号通達 により範囲が限定されており、外国銀行の海外支店は利用できない点に注意。
・円建て決議の場合は為替リスクに備え、多めの払込と資本準備金処理を決議に盛り込む必要がある。
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