組織再編×株券提出の実務整理(株式交換を中心に)
株式交換における株券提出義務
組織再編(合併・株式交換・株式移転など)では、株券を発行している会社が関与する場合、原則として「株券提出公告」と「株主への個別通知」を行う必要があります。
なぜなら、
・株券という「紙」の存在を確定させて、効力発生日に旧株券を無効化するため
・株券を持っている株主に「効力発生日までに会社へ提出してください」と呼びかけ、提出されない株券については法律上の手当(異議催告・喪失登録など)で処理する必要があるからです。
特に問題になるのは次のようなケースです。
1.子会社は株券発行会社だが、親会社は株券不発行会社
→ 株式交換の対価は「親会社の株式」ですが、親会社には株券がないため「株券を提出しない株主にどう対応するか」が曖昧になる。
2.株券を紛失している株主がいる場合
→ 「株券喪失登録」や「異議催告手続」で救済される仕組みがありますが、組織再編と重なると処理が複雑化する。
3.株券が無効になる時期の矛盾
→ 会社法219条(組織再編で効力発生日に無効)と228条(喪失登録から1年後に無効)の関係がややこしい。
つまり、株券提出の論点は「効力発生日に株券が提出されなかったときに、会社は対価交付を拒めるのか?/拒めないのか?」という一点に集約されます。
その上で「異議催告」「喪失登録」といった制度の使い分けをどうするかが実務の悩みどころになります。
論点別の結論(要点)
株券未提出でも対価交付を拒めるか
→ 本件前提(親会社が株券不発行・対価は株式のみ)では、実務上は拒めない(親会社株主名簿への記載・記録で足りるため)。
→ 「拒む」実益は、現金等が対価の場合や親会社が株券発行会社の場合に限られてくる。
株券喪失登録と異議催告の関係
→ 同時併用は不可。
→ 喪失登録の満了日よりも、異議催告の満了日が先に到来するときのみ、異議催告に切替可能(異議催告公告をしたら喪失登録は抹消)。
→ 今回前提(対価が親会社株式のみ・親会社は株券不発行)だと、異議催告を採っても実益が乏しい。
株券の無効時期の見方(219条・228条)
→ 219条3項:株式交換等の効力発生日に旧株券は無効。
→ 228条:喪失登録から1年経過時に無効(再発行前提)。
→ 実務上は、219条で行為(株式交換等)に伴い無効化、喪失登録は**“手続の足場”として継続する扱い**(再発行は省略され得る)。
→ 吸収合併では、消滅会社の喪失登録は存続会社へ承継(消滅会社名義の喪失登録として維持)。
比較表・場面ごとの“やる/やらない”
場面 | 会社の組合せ・対価 | 株券提出がない場合の対価交付 | 異議催告(220条) | 喪失登録の扱い・無効時期 |
---|---|---|---|---|
株式交換(本件前提) | 子:株券発行/親:株券不発行/対価:親株式のみ | 拒めない(親の名簿へ記載・記録) | 実益乏しい(やっても交付拒絶の意味が薄い) | 219で効力日に旧株券無効/喪失登録は継続(再発行省略可) |
株式交換(親が株券発行 or 現金対価あり) | 子:株券発行/親:株券発行 or 現金併用 | 拒める余地あり | 有効(3か月異議なしで交付) | 同上(状況に応じ再発行/省略) |
吸収合併(子=消滅) | 消滅:株券発行 | 原則、存続側で整理 | 事案に応じ選択 | 喪失登録は存続会社で承継(消滅会社分として維持) |
株式併合 | 同一会社内の株券交換 | 提出なければ交付拒絶可 | 有効(手続短縮に) | 219で旧株券無効→新株券交付(喪失登録なら満了まで交付拒絶) |
実務チェックリスト(本件前提、親=株券不発行・対価株式のみ)
通知・公告
・株券提出公告・個別通知は形式どおり実施(提出なければ実務影響は小)。
・文面は「喪失の申出」より、喪失登録・異議催告の案内に言い換え、誤解を避ける。
名簿実務
・親会社株主名簿への記載・記録で交付完了。
・子会社側の株主名簿整備は効力発生日で打切り。
喪失登録が既にある場合
・継続させつつ、再発行は省略(親が株券不発行のため)。
・ただし、名義人と喪失登録者が異なる特殊例は、承認や書換の要否を個別判断。
異議催告の採否
・現金対価や親が株券発行でない限り採用不要。採るなら、喪失登録の満了時期との先後関係を確認。
まとめ(使い分けの指針)
・親が株券不発行・対価が株式のみなら、株券未提出を理由に交付拒絶は困難。
・異議催告は“対価を止めたいとき”の短縮手段。本件前提では実益が乏しく、原則採用しない。
・喪失登録は法的ステータスを維持する“足場”。株式交換等で旧株券は219条で無効になるが、喪失登録自体は継続(再発行は省略可)。
・合併では喪失登録を存続会社へ承継する運用を想定しておく。
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本日は、組織再編×株券提出の実務整理(株式交換を中心に)解説いたしました。
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